卒業生メッセージ

Vol.1

徳野 智子さん

職業
フリーランス通訳者。NHKの放送現場で活躍中。
受講歴
「国際ニュース英語II」からスタートし、「放送通訳I・II・III」を履修して卒業。(※現在は、コースの構成やクラスの名称が異なっています。)
受講した
きっかけ
友人の紹介で国際研修室を知り、卒業生はNHKで放送通訳の仕事ができるというので挑戦してみようと思いました。大学時代から漠然と通訳になりたいという夢は持っていましたが、結婚後、子どもが生まれてからは10年間専業主婦をしていました。下の子が小学校に入った時、もう一度勉強したいと思ったのがきっかけです。

放送通訳の醍醐味を教えてください。

「放送通訳者」というのは、厳しい時間的制約の中で「通訳者」と「ジャーナリスト」と「アナウンサー」の三役を一人でやる仕事です。担当するニュースの内容も多岐に渡り、さまざまな分野の幅広い知識が求められます。歴史的瞬間とも言える非常に影響の大きいニュースを通訳することもあります。そうした緊張感や責任の重さと格闘しながら、できるだけ正確に、少しでもわかりやすく、と工夫を重ねるのがこの仕事の醍醐味です。海外のニュースを見ると、ダイナミックに動く世界の流れが見えてきます。世界が見えると、これまでとは違う視点から日本が見えてきます。視聴者の方は専門家かもしれないし、中学生やお年寄りかもしれませんが、その一人一人に語りかけ、新しい視点や感動を届けることができたら、と思いながら仕事をしています。

これまでのキャリアの中で、特に印象に残った仕事は何ですか。

仕事に入るようになった直後に米国で同時多発テロが起き、あの時は本当に驚きました。現場では、怒号や原稿が飛び交い、ニュースをやるというのはこういうことなんだと、改めて肌で感じました。東日本大震災の時は、泣きそうになるのをこらえながら、世界が日本をどう見ているかを伝えました。イラク戦争でフセイン大統領の銅像が引き倒された時の初めてのセミ同時通訳や、オバマ大統領一期目の就任演説のPBSニュースも忘れられません。また以前海外向けに放送されていた「Weekend Japanology」の日本語版の通訳では、日本の知らない面に気づかされ、スタッフの方々と一緒に番組を作っていく楽しさを経験しました。

ご自身で力を入れてきた勉強法やおすすめの勉強法があれば、教えてください。

勉強を始めて、英語力だけでなく、背景知識が大きく足りないことに気づきました。そこで、午前中はABCワールドニュース、午後は通訳者としての一般常識の勉強という具合にスケジュールをたて受験生のように勉強しました。ニュースを聞いても、初めは知らない単語や表現、聞き取れない音だらけで、5分間のニュースを「解読」するのに何時間もかかりました。先生方に奨められたことも全てやりました。シャドウイング(英語・日本語)、ニュースのトランスクリプト、サイトトランスレーション、分野別の単語帳や知識のまとめ、時差通訳の練習(原稿作成時間の長さを変えて)、Newsweek等の英語版と日本語版を使った翻訳練習、新聞の社説の音読、英語TV番組や映画の視聴など。特に自分の弱いところは集中的にやりました。

国際研修室で学んだことが、直接仕事で役立っていると実感したことはありますか。

不特定多数の視聴者にわかりやすく伝えるための工夫、原語との距離の取り方、報道に関わる者としての心構え、仕事に取り組む姿勢など、研修室で学んだこと 全てが仕事に役立っています。でも何年やっても「今日は全部うまくできた」と納得できたことはありません。今も自分のパフォーマンスは全て録画して聞き返 し、誤訳はないか、分かりにくい表現はないか反省しています。現場で先生方とご一緒することがありますが、今でもたくさんのことを学ばせて頂いています。 パフォーマンスの質の高さはもちろんですが、本番ギリギリまで不明点を調べ、「てにをは」一つまでこだわって原稿を手直しするなど、真摯に仕事に取り組む 姿を拝見して背筋が伸びる思いです。卒業して14年になりますが、今もずっと授業が続いているような気がします。

学習成果がうまく表われずに落ち込んでしまった時など、どのように乗り越えましたか。

授業は楽しいと同時にたいへん厳しかったのですが、本当にクラスメイトに恵まれました。情報交換したり、アドバイスをしあったりして弱点の克服に努め、時には飲みに行って愚痴を言ったり、慰めあったりして苦しい時を乗り越えました。今も現場で助けてもらうこともしばしばです。先生方は、個性豊かな素晴らしい方ばかりでしたが、共通するのは厳しくも暖かいご指導でした。とても卒業までたどり着けるわけはない、と気持ちが萎えることもありましたが、素晴らしい授業を少しでも長く受けたいという思いでしがみつきました。憧れの先生方と一緒に仕事をするという夢が支えになりました。ほとんど経歴もない自分が本当に放送通訳になれるとは正直思っていませんでしたので、今も長い夢が続いているような気がします。放送通訳という仕事に魅力を感じていらっしゃるのであれば、納得いくまで自分に挑戦してみて下さい。

最近はまっていることやストレス解消法はありますか。

私は子どもが二人いて、下の子が小学校に入学した年に国際研修室に入りましたが、この3月に孫ができ、おばあちゃんになりました。というわけで最近はまっていることは、孫の子守です。ストレス解消法は、テニスとコーラスです。テニスは体力維持のためでしたが、最近はかなり真剣で試合に出たりしています。小学校の時からやっていたコーラスは高校卒業後中断していましたが、数年前に再開しました。腹式呼吸で響きのある暖かく柔らかい声を出すのが理想で、この発声法が仕事にも役立っているのかもしれないと思います。放送通訳という仕事には、「英語」と「声を出す」という自分の好きな2つの事が入っていたんだなと最近気づきました。

最後に、通訳者、翻訳者をめざしている方へのメッセージをください。

受講する過程で、とても超えられないそうもない壁にぶつかり、落ち込んだり、もう諦めようと思うことがあるかもしれません。でも自分の限界をほんの僅かでも押し広げる努力を続けていけば、道は拓けると思います。一直線の最短コースの人もいれば、時間をかけて曲がりくねった道を進む人もいるでしょうが、積み重ねた努力と時間は決して無駄にはなりません。私は国際研修室に在籍した4年半、劣等感にさいなまれっぱなしでしたが、素晴らしい先生方に教えて頂き、仲間に支えられ、夢中で頑張った幸せな日々でもありました。皆さんもどうぞ楽しんで勉強を続けて下さい。