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2014年12月16日

*ご要望にお応えして* 特別講演会「放送通訳の現場」ご報告

国際研修室では、8/30(土)に特別講演会「放送通訳の現場」を開催しました。その後、多くの方から講演会の内容についてお問い合わせをいただいております。そこで、皆様のご要望にお応えし、その概要をご報告することにしましたので、ご覧ください。

《開催概要》

開催日時:8/30(土)14時~

内  容:「放送通訳の現場」 放送通訳の歴史~放送通訳の仕事~ニュースの通訳の現場

講  師:戸谷比呂美先生(フリーランス通訳者。NHKでは放送通訳者、国際研修室では講師として活躍中)

 

今回の特別講演会では、普段私たちがうかがい知ることのできない、NHKの放送通訳の現場について話していただきました。講師の戸谷比呂美先生は、放送通訳の創成期からこの仕事にかかわってこられました。ご自身のキャリアは、NHK放送通訳の歴史とほぼ重なっており、その意味でも、今回の講演は、貴重な体験をお聞きできる機会にもなりました。

《放送通訳の歴史》

NHKがBS放送を開始したのは1989年です。その1年前の1988年、戸谷先生はまだ通訳学校に通っている生徒でしたが、NHKがBS放送開始に向けて通訳者を募集しているという話を聞き、思い切って試験に挑戦。そして見事合格しました(※現在は、この試験は行われていません)。右も左もわからない中、まずは英語の字幕を作成をする仕事から始めることになりました。まもなくOJTで放送通訳の仕事にも入ることができました。戸谷先生は、帰国子女でもなく、留学経験もありませんでしたが、当時は放送通訳の創成期で、1人でも多く現場に入ってくれる通訳者が必要とされていました。現在に比べると、放送通訳の仕事に就きやすい時代だったかもしれません。しかし、それと引き換えに、放送通訳を業務として確立していくためには計り知れない苦労がありました。特に、当時は現在のようにインターネットもパソコンも普及していませんでしたので、調べ物には大変なご苦労があったそうです。

BS放送開始から25年。現在NHKグローバルメディアサービスのバイリンガルセンターでは2000人以上の登録通訳者・翻訳者が、約80の言語に対応しています。英語は約450人が登録していますが、登録者によってその仕事内容はさまざまです。依頼される仕事にはどのような形態があるのか、引き続き話していただきました。

《放送通訳の仕事》

放送通訳の仕事は、大きく分けて2つあります。1つは定例化している仕事で、BS放送で伝える海外メディアのニュースの通訳や、報道番組の制作にかかわるさまざまな業務です。番組の表には出てこないような、英語のニュースの翻訳、取材用の手紙作成や電話取材などの仕事などもあります。こうした仕事は、だいたい1か月単位でスケジュールが組まれていきます。もう1つは単発案件で、「NHKスペシャル」「NHKニュース7」「ニュースウオッチ9」「海外ネットワーク」などで使用する素材の映像や音声の翻訳、番組の中の英語部分の通訳(「クローズアップ現代」、海外向け放送の「NHKワールドTV」「特ダネ!投稿DO画」など)のほか、海外の要人へのインタビューなどもあります。これらの仕事は不定期に発生します。いずれも海外のニュースを日本に紹介するのが主な目的ですので、基本的には英語→日本語の仕事がメインになります。「NHKニュース7」や「ニュースウオッチ9」などの2か国語放送や海外向け放送で伝える英語ニュースは、原則的にニュースライターと呼ばれる人たちが英文原稿を作成し、それをナレーターが読み上げます。(緊急ニュースなど英文原稿の作成が間に合わない場合には、ナレーターに代わって、通訳者が直接英語に訳出することがあります。これは、BS放送の放送通訳者ではなく、日英担当の通訳者が行います。)

さて、放送現場はいったいどのような様子なのでしょうか。映像や写真、原稿などを交えながら臨場感あふれるお話しが続きました。

《ニュースの通訳の現場》

ここからは、先生が実際に通訳をされたニュース映像やボイスオーバーをしている現場の写真を見たり、作業の流れや分担についての説明を聞きました。ニュース映像の内容は、国際政治からワイドショーのような話題までジャンルを問わず、あらゆる分野に及びますが、どんな場合でも放送通訳者は即座に対応しなければいけません。その厳しさが、会場の参加者にも伝わってきました。その後、参加者全員がその映像を使って簡単な字幕作成に挑戦。自分で作成した英語の字幕を、再度映像に合わせながら確かめていました。なかなか体験することのできない放送通訳の現場を、参加者も大いに実感できたようでした。

~ 事務局から ~

当日は、通訳者を目指す方だけではなく、現在英語を勉強中の方、翻訳者を目指す方など、いろいろな立場の方がご参加くださいました。戸谷先生のご苦労されたお話は、プロ志望ではない方にとっても大いに役立ったとの感想が寄せられています。第一線で活躍中の通訳者・翻訳者のお話を聞きたい方、次回は是非会場へお越しください!