卒業生メッセージ

Vol.6

吉本 史夫

職業
フリーランス 翻訳者・ニュースライター。NHKの放送現場で活躍中。
受講歴
「翻訳英語」「日→英放送翻訳」「日→英ニュースライティング」を履修。仮卒業の後、現場でのOJTを経て、2015年に卒業。
受講した
きっかけ
ニュースの分野で仕事をしたいと考えていたので、国際研修室を選びました。

国際研修室を選んだ理由を教えてください。

卒業すれば、自分の興味のあるニュースの分野で仕事ができること、そして、NHKで実際にどのような仕事をするのか明確にイメージできたこと、それが魅力で国際研修室を選びました。
当初は「日→英ニュースライティング」「日→英放送翻訳」のどちらにも興味がありました。「日→英放送翻訳」の授業でも、ドキュメンタリー番組の教材を通して時事問題を扱うと聞きましたので、そちらにも興味がありました。

入学後は「翻訳英語」からスタートされましたが、いかがでしたか。

どのレベルでもよいから入学できれば、と思っていました。ですので「翻訳英語」だからといってがっかりするようなことはありませんでした。むしろ適切なレベルからスタートできたと思っています。それまでにも翻訳の仕事をしていましたが、ずっと技術翻訳をしていたため、日々の生活やニュースで使われるような英語には強くありませんでした。いきなりプロコースに入るよりもよかったと感じています。

技術翻訳の仕事と国際研修室で勉強する翻訳、どのような違いがありますか。

長年、特許文献の英訳をしてきましたが、特許翻訳の世界では意訳はせず、日本語をそっくりそのまま1文字も漏らさず、鏡映しのように英訳することが求められます。出来上がった英語は自然な表現でなくてもよい、むしろ自然な英語になるようではいけないとさえ言われています。しかし国際研修室では、日常で使われたり新聞に出てきたりする表現を、とにかく自然に書けるようになるまで徹底的に鍛えられました。同じ翻訳とはいえ、それまでやってきたこととはまったく異なり、これは別世界だと感じました。

吉本さんは、たいへん正確な英文を書かれるそうですが、どのようにしてその力を培われたのですか。

高校時代は、あまり英語の成績はよくありませんでした(笑)。文法書に出てくるような細かい規則を勉強するのは苦手なんです。もちろん、わからないときは文法書で調べますが、最初から向き合うことはしません。それよりも、新聞記事などきちんと書かれている文章をまねすることから始まるのではないかと考えています。日本語の記事があるとすると、それに近い記事をニューヨークタイムズの紙面や、ロイター、BBCなどのウェブサイトから拾い、そこで使われている表現をまねして書きました。そして常に「これが実際に記事になるんだ」と想定して書きました。そうでなければ勉強する意味がないと思っていましたから。

勉強方法について、もう少し具体的に教えてください。

ノートにまとめるのは得意ではないので、代わりに記事を切り取って暗記しました。お風呂に入っているときや、暇なとき声に出してみたり、声に出さないのなら書いてみたり、なんらかの形でアウトプットして覚えました。野球の素振りと同じようなもので、ふだんから体に染み込ませていく感じでしょうか。
「翻訳英語」から「日→英ニュースライティング」へ進んでからも、やっていたことは同じです。ただ、同じ方法では飽きてしまうので、少しずつやり方を変えました。たとえば、NHKのウェブサイトには日本語と英語の両方のニュース原稿が掲載されていますので、まず日本語を訳し、英語と照らし合わせました。また、英語の記事を読んでいる時に「この表現は自分からは出てこないだろうな」と思うものがあれば、それを日本語で書き出しておいて、時間が経過してから英訳しました。とにかく飽きないようにいろいろ工夫しました。

国際研修室で学んだことは、直接仕事に役に立っていますか。

授業では、毎回たくさんの刺激を受け「あれもやらなくては、これもやらなくては」と思うことばかりでした。勉強そのものよりも、多くのことに気づいたこと自体が、私にとっては一番重要だったと感じています。実際に仕事に入る前に、どういう準備をするのか、どういう心構えで向かうべきなのか、また、この仕事の厳しさも、国際研修室であらかじめ体験することができました。

NHKでは、どのような仕事をしていますか。

卒業後は、まず英語センターで仕事をすることになりました。仮卒業の時もOJTで入ったことがあります。ここでは、日本語の原稿を元に、英語の原稿を作成します。汎用原稿と呼ばれるものを作成し、ここからさらに、テレビ、ラジオ、ウェブサイト用の原稿が作成されます。
現在は、NHKの海外向け放送「NHKワールドTV」で放送されている「NHK NEWSLINE」の原稿も書いていますが、番組の開始時刻が迫っている時は、英語センターで作成途中の原稿をもらってきて、 すぐ放送できるように直すこともあります。
「NHKワールド ラジオ日本」(日本語を含む18言語で世界に発信)の原稿も担当しています。ラジオ日本では、特定の国だけに関係するニュースを扱うこともありますので、その場合は英語センターを通さず、直接原稿を作成します。「インサイト」というニュース解説番組では、インタビューや企画ものの原稿も書きますが、そういったものはニュース原稿と同じスタイルで書くわけにはいきません。また、その英語原稿を元に他の言語に訳されることもあるため、日本語から離れずに書くようにとも言われます。文章の構成を変えず、日本語原稿と比較対照できるようにして訳します。

どのようなペースで仕事をしていますか。

日中のシフトは週2回、泊まりのシフトは週1回です。日中は3~4人で対応していて、それぞれ2~3本ずつ原稿を担当しますが、夜間は1人のため、平均して6本ほど書くことになります。たまに30分くらい空くこともありますが、休憩時間以外はほとんど書き続けています。自分ですべて対応しなければならないため重圧感もあります。しかし、1本ぐらい書くとエンジンがかかってきます。たくさん書かなければうまくなりませんので、苦しいと感じることもありますが、同時におもしろいとも思います。泊まりの時は、前日に仮眠をとり、夜10時から翌朝6時まで入ります。帰宅後は寝ずに、その日の夜早めに寝るようにしています。特許の仕事は、現在はかなり抑え気味にしています。

特に印象に残った仕事はありますか。

昨年、神奈川県の障害者施設で凄惨な事件がありましたが、あの事件が起きた日は、ちょうど私が泊まりシフトの時でした。早朝5時頃、第一報が入ってきて「ニュース速報を出すからパッと書いて」と言われました。しかし、その時点では、まだどのような施設なのかよく分かっていませんでした。障害者の方のための施設といっても、どういう障害のある方が利用するのか、デイケアなのか入居施設なのかなどの詳しい情報がなければ、英語の言葉を選ぶことができません。インターネットで調べようとしても、ホームページはすでにパンク状態。結局そのときは「facility」としか書くことができませんでした。原稿は15分程度で仕上げなければならなかったので、3~4パラグラフの短いものでしたが、過去に参照できるような原稿もなく、たいへん緊張した仕事でした。

この仕事の醍醐味を教えてください。

やはり日本独自の話題を海外に伝えるのがたいへんおもしろいです。海外の話題も日本のニュースで報道することは頻繁ですから、海外の話題を英文にすることもよくあります。しかし海外の話題というのは、すでに一旦どこかで報道されているわけですから、それらの後追いで書くことになります。ところが日本の話題となれば、まだ海外では報道されていませんので、自分が一番初めに訳すことになり、これにはたいへんやりがいを感じます。最近は原発のニュースなども多いですが、原子炉が再稼動するかしないかなどの話になると、海外では、日本国内で扱われているほど詳しくは伝えません。国によって立ち位置が違うわけですから、それは当然のことですが、「外側からはそのように見えたとしても、日本側にはこういう経緯があるからこう考えている」ということを発信していくことに重要性を感じています。

最近はまっていることや、ストレス解消法はありますか。

サッカーが好きなので、子供のサッカーチームのコーチをしています。グランドの手配、練習メニュー、親御さんの対応などもありますので、結構たいへんです(笑)。それから山登りも好きです。テントを持って、2~3日縦走することなどもありますが、今は小さい子どもがいるので、最近は八ヶ岳くらいですね。