講師インタビュー

インタビューVol.2

釜田 昌幸 先生

2005年 国際研修室 「日→英翻訳コース」卒業。(※現在は、コースの編成や講座の名称が異なっています。)「NHKスペシャル」などの放送台本の日→英翻訳や、海外向けの「NHKワールド」の経済ニュースライターとして活躍中。

担当コース
  • 「日→英翻訳」「日→英放送翻訳」

先生が教えている講座の特徴を教えてください。特に重視していることは何ですか。

「日→英放送翻訳」では、「日→英翻訳」より番組台本の課題が多くなりますが、両講座ともになるべく幅広いトピックをカバーするようにしています。学期により多少異なりますが、エッセーや小説、時には漫画といったものから、国内外の時事問題、経済、国際関係、科学、文化、スポーツなど、多岐にわたります。全ての分野に精通することは不可能ですが、NHKでの仕事を目指すのであれば、どんな内容でもOK!という自信をつけることが必要だと考えるからです。

受講生に対する期待値としては、単に課題をこなすだけでなく、それぞれのトピックについていろいろな記事を読んで勉強してほしいと思っています。知識が増えれば、それだけ語彙も増えます。また、日本語の原文を読み違える、あるいは事実に反することを書いてしまう、といったことも減ると思います。

先生ご自身が徹底的にされてきた勉強法はありますか。

特にありませんが、あまり興味のない分野も含め、なるべく幅広く読むようにしています。例えば、スポーツ。以前は野球にはあまり興味がありませんでしたが、MLBで活躍している日本人選手に関する記事を読むようにしているうちに、野球特有の表現にも慣れてきました。最初は面白くないと感じても、ちょっとしたきっかけで興味を持てると思います。

それから、なるべく音読するよう心がけています(そのためか、読書量はあまり多くありません)。以前、企業で通訳の仕事をしていた頃からの習慣ですが、放送向けの英語は文字として読むものではなく、音として聞くものですので、書いてある文章がどのように聞こえるか、という点に注意を払うのは大事だと思います。

翻訳の仕事を目指そうと思われたきっかけを教えてください。

アメリカの大学を卒業後、現地で金融やITの仕事をしていました。翻訳の仕事を始めたのは10年程前に帰国してからですが、英語を書くことに興味があり、日→英に特化した翻訳コースは国際研修室しかありませんでしたので、受講を決め、今日に至ります。特定の業界のみでなく、社会問題など幅広くカバーするNHKの番組台本を英訳できればと思いました。

番組台本を翻訳する仕事には、どんな特徴がありますか。

放送向け翻訳では、聞きやすい、シンプルな文章にする必要があります。日本語の文章パターンにとらわれず、長い関係詞節で聞き手を待たせたりしないことが大切です。日本語では受動態や体言止めが多用されますが、そのまま英語にすると不自然なことが多いです。

また、映像に合った表現、長さでなければなりません。映像を見れば分かる部分は割愛することもありますが、大切な情報を削除するわけにはいきません。また、海外ではあまり知られていないことに関しては情報を追加する必要がありますが、文書の翻訳と異なり、尺(時間)が足りない場合もあります。

このように注意点は多いのですが、車の運転と同じで、大事なのは慣れることだと思います。

英語のニュース原稿を作成する仕事には、どんな特徴がありますか。

ニュースの場合、「NHKスペシャル」などの番組と違い、作業時間が限られます。また、日本語のニュース原稿は文章が複雑で、繰り返しが多いですが、それを聞きやすい一つの作品にしなければなりません。原文をそのままの順に訳すのではなく、要約も必要となります。また、短い原稿ですが、英語では同じ表現の繰り返しを避けることも重要です。

「日→英翻訳」の講座では、ほぼ毎週、授業の初めにNHKワールドのニュース記事を使い、ウォームアップを兼ねてリードを書く練習をします。これは成績には考慮しません。やっているうちに興味を持ち、ニュースライティングの講座に進級された方もいらっしゃいますし、興味がなくても、簡潔で聞きやすい文章を書くという意味では、長編の番組台本の翻訳にも共通すると思います。

時間制限がある中でクオリティーの高い原稿を仕上げるには、どのようなコツがありますか。

ニュースライティングはもちろん、番組台本の場合も尺が長く(「NHKスペシャル」だと通常番組の半分担当で25分程度)、時間は限られます。その中でクオリティーを上げるには、やはりしっかりしたライティングスキルを身につけておく必要があります。また、短時間でリサーチしなければならないことも少なくありませんので、読解力も欠かせません。

コツと言えるかどうか分かりませんが、自分の書いた文章がすっきりしない場合、主語を変えてみると、より自然な英語になる場合もありますので、原文の主語をそのまま主語にするのではなく、異なる単語で文章を始めてみるといった練習をすることにより、次第に瞬発力が身につくかもしれません。

翻訳の仕事の醍醐味を教えてください。

ニュースライティングですと、限られた時間内で作業をすることが、チャレンジでもあり、面白さでもあると思います。自分の書いたものが、すぐに日本人デスクやネイティブスピーカーにリライトされ、どこが良かったか、どこが改善の余地があったかレビューできますので勉強になります。

番組台本は尺も長くなりますので、それだけ達成感があります。また、ありとあらゆるトピックについて翻訳できることもNHKならではの魅力です。例えば、「病の起源」「超常現象 科学者たちの挑戦」「シリーズ原発危機」「ミラクルボディ(ネイマール)」「里海 SATOUMI」「日米開戦への道」「宝塚トップ伝説」などなど。いつも、次はどんなトピックのお仕事を頂けるか楽しみです。

ご自身のキャリアの中で、特に印象に残っている仕事は何ですか。

多すぎて選ぶのが難しいですが、番組台本で一番最初に担当させて頂いた「プロフェッショナル:大瀧雅良」でしょうか。清水商業サッカー部監督として、小野伸二、川口能活といった日本代表選手を育てた方ですが、とても感動的な内容で、ビデオを見ながら仕事を忘れてうるうるしてしまったのを覚えています。番組最後の「プロフェッショナルとは」のコメントもかっこ良く、気合いを入れて訳したのですが、リライトされて返ってきた英文を見たら、修正なし?!と一瞬思ったのもつかの間、冠詞が一つ直されていました。やはり冠詞は難しい!

印象に残る仕事は他にも沢山ありますが、「NHKスペシャル:沸騰都市 TOKYOモンスター」の冒頭もとてもチャレンジングでした。漫才コンビ「ナイツ」による、「ヤホー(Yahoo)」とか「山芋(山手)トンネル」といったボケとツッコミが炸裂、二人のやり取りが2−3分続く部分があり、苦しいながらも楽しく翻訳したのを覚えています。

多忙な毎日の中で、どのようにリフレッシュしていますか。

これといってありませんが、時々ジムに行って汗を流したり、喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読んだりしています(学期中は添削しているとあっという間に時間が経ってしまいますが)。また、最近は英語のドラマをよく見ます。今ハマっているのは、アメリカにいた頃ファンだった 「Star Trek: The Next Generation」と「LAW & ORDER」です。堅苦しい本を読むだけが勉強ではありません。好きなドラマを何度も見るのもいいと思います。実際、アメリカで見た昼メロや「Pulp Fiction」といった映画から翻訳のヒントを得たこともあります。