講師インタビュー

インタビューVol.6


高橋 百合子先生

NHKにて通訳者、翻訳者、ニュースライターを経て、国際研修室では設立当初より講師として指導にあたる。また複数の大学にて講師・教授職を歴任。

担当コース
  • 「Advanced Communication Skills」、「ニュース英語」、
    通訳系・翻訳系講座のカリキュラム作成

高橋先生は国際研修室の設立メンバーのお一人ですが、設立した当時の目的を教えてください。

今から30年ほど前になりますが、当時ペルシャ湾周辺で起きた湾岸戦争のニュースを報道するために、NHKの放送現場では急遽、ほぼ24時間に近い体制で通訳者が必要となりました。その頃は、海外から飛び込んできたニュースに即座に対応できる通訳者はまだ少なく、NHKでも他の現場でも、優秀な通訳者を確保することには大変な苦労がありました。また、その頃はニュース7での多重放送、つまり副音声での英語放送の充実も急務となっていました。多重放送では、日本のニュースを英語で報じますので、英語のニュース原稿を書くことのできるライターや、番組のオンエア中、生中継に対応できる同時通訳者も必要でした。そうした経緯から、NHK側の要請で通訳者を養成することとなり、1992年に国際研修室が設立されました。

当時はとにかく少しでも多くの人材が必要とされたため、受講生はある程度勉強すると、すぐに卒業生として放送現場に行かされ、大変厳しい環境にさらされました。もちろん国際研修室の講師は非常に熱心に指導しましたが、初期の卒業生は、仕事に出てからOJTで学んだ部分も大きかったと思います。その後、体系的に訓練する仕組みが徐々にできあがり、現在のように基礎からレベルアップしながら学べるようになりました。

現在では、放送現場での仕事を希望する人だけではなく、いろいろな目的を持った人が国際研修室で学んでいます。国際会議で活躍する会議通訳者を目指す人、勤務先で通訳や翻訳をする必要がある人、英語的な発想で話したり書いたりできるようになりたいという人など、それぞれの目標を達成するために国際研修室で学んでいます。

高橋先生は、通訳系、翻訳系を通じて、複数の講座の教材作成を担当されていますが、教材を作成される上で、特に重要視されている点はありますか。国際研修室ならではの特徴はありますか。

教材作成の際にこだわっているのは、なんといってもタイムリーな素材を選んでいることです。NHKのよさはそこにあります。通訳や翻訳のスキルを説明する教材は変わりませんが、実践的な練習をするための教材は、毎学期ほとんど新しいものを作成しています。そして、英語力が向上するだけではなく、その内容も知識として身に付くような素材を選んでいます。通訳者も翻訳者も幅広い知識が必要とされる仕事ですから、さまざまな分野の情報が徐々に蓄積されていくようにと思って選んでいます。

具体例を挙げると、たとえば今全世界を席捲している新型コロナウイルス。厳しい都市封鎖を実施する国からほとんど制限なしに集団免疫を目指す国まで、各国の対処の違いは、それぞれの国の医療保健体制、政治体制、文化的背景や価値観の知識なくては理解できません。起きている出来事を表面的に追うだけではなく、なぜそうなのか、歴史的な背景も理解していなければ、問題の本質は分からないでしょう。

ニュースを通訳したり翻訳したりする人が、そうしたことを理解していないままに言葉だけを置き換えても、訳した内容にそれが表れてしまいます。ですから、1つのテーマを取り上げるたびに、必ず背景や歴史なども学べるようにしています。

現在、先生が直接指導しているクラス 「Advanced Communication Skills」の特徴を教えてください。また、どのような受講生が、どのような目的で受講しているのか、教えてください。

「Advanced Communication Skills(以下ACS)」は、通訳者志望ではないけれども高度な英語力を身につけたいという人、通訳者志望だけれども英語のアウトプットをもっと磨きたいという人たちのニーズに応える講座です。国際研修室の中で、最もたくさん英語を話すことができる講座です。一般的に、英語の授業では、先生がたくさん話すことになりがちですが、「ACS」では、受講生が多く話せる仕組みを作っています。

まずはリスニング&リプロダクション。これは、英語を聞いて日本語に訳すのではなく、英語を聞いてその内容を英語で説明します。聞いた英語を繰り返すのではなく、自分なりの英語で説明する練習です。そしてプレゼンテーション。プレゼンの授業は他校でも行われていますが、ACSではきちんと系統立てて指導し、自分のプレゼンに磨きをかけるためのポイントをアドバイスします。初めて学ぶ人だけではなく、他校で学んだ人も、仕事で実践を積んできた人も、より深く学ぶことができます。さらにディスカッション。ここでは特に、自由に話す機会を増やすようにしています。トピックは、やはり社会問題が主になりますが、常にタイムリーなものを選びます。ディスカッションの前には関連記事や資料を配布し、知っておくべき予備知識を頭に入れてきてもらいます。準備の過程でリーディング力も鍛えられることになります。そのディスカッションを、意見を対立させる形式で行うのがディベート。同じく社会問題を扱いますが、賛否両論ある問題を取り上げます。一例としては、ジェンダーの問題。これを学校教育でも教えるようにするべきか否かなど、それぞれが身近に考えられるような問題を設定し、論拠を示して説得力のある話し方ができるように訓練します。

このほかに、カルチュラルリテラシーという授業があります。英語を母国語としない人にとっては難しい、言葉の持つ歴史的背景や文化的背景に気づくようになってもらうための授業です。英語では、聖書やギリシャ・ローマ神話、あるいはシェイクスピアの劇の台詞を、比喩として用いることが実に多いのです。ある経済誌の記事のタイトルなどは、ほとんどそのように書かれています。明らかな比喩ではなくても、関連のある言葉や表現が非常に多く使われています。知らずに読み飛ばしていると、おもしろさが分からなかったり、皮肉が込められていることに気がつかず、その記事の奥行きの深さを感じることができません。すべての歴史や文化を知っておくことは不可能ですが、英語を読み聞きする時ふと、これは何かのたとえではないか、と気づくことがとても大切です。そして調べてみると、英語がもっとおもしろくなります。カルチュラルリテラシーは、そうしたことに気づけるようになるための授業です。



受講生が特に苦労するのは、どのような点ですか。お勧めの勉強方法はありますか。

英語を指導しているとよく「聞き取りはできるけれど、話す方は得意ではない」という声を聞きます。ですが、それは少し違うのではないかと感じています。自分で聞き取りはできると言う人であっても、内容について質問してみると半分ほどしか理解できていないこともよくあります。高いレベルで聞き取りができるのであれば、ある程度まではアウトプットの力もついてくるはずです。日本語に置き換えてみればわかることですが、人から聞いた話を理解できていなければ、当然アウトプットすることもできないでしょう。話すことができない原因は、不完全な聞き取りによるところも大きいと考えています。アウトプットの上達には、まずは聞き取りを完全にすること。そして聞いた内容を英語で説明すること。そうすれば、きちんと聞き取れていたかどうかを確認することもできますし、自ら英語をアウトプットする練習にもなります。これはDLS(Dynamic Listening and Speaking)という学習法で、非常にすぐれた練習方法だと考えています。「ACS」の授業でも取り入れています。

DLS英語学習法について、詳しく聞かせてください。

DLSでは、聞いた内容を英語で説明します。通訳練習のように日本語に置き換えるのではありません。日本語に置き換えると、その分負荷がかかってしまい、英語はきちんと理解できているのに、日本語表現がうまくできなかったり、日本語の定訳を知らないことがネックになったりして、必ずしも英語そのものを理解しているかどうかの確認にはなりません。しかし英語で説明するのであれば、本来の理解力だけを確かめることができます。

英語で説明する時、記憶したとおりにオウム返しのようにスピーキングをするのでは単なる記憶力の問題になってしまいます。自分の言葉で説明します。すべての表現を置き換えることはできませんが、たとえばイディオムの部分は普通の言葉を用いたり、複雑な文章は簡単に言い換えたりするなど、なるべく平易な表現に置き換えるようにします。これは、非常に高度な練習です。平易な表現で説明する方が、かえって難しいこともあります。通訳の勉強をしている人でも、日→英通訳の練習になると、途端に英語のアウトプットが苦手だと慌てる人が多いようですが、是非この方法で訓練を重ねてほしいと思います。

通訳者を目指すべきか、翻訳者を目指すべきか、悩む方が多いようです。何をポイントに決めたらよいでしょうか。

さまざまな要素が関わってくることとは思いますが、やはり向き不向きはあると思います。日本語を話す上でも、どんどん言葉が出てくる人もいれば、考えながら言葉を選ぶ人もいます。しゃべりが得意であれば、通訳者に向いているでしょう。また、通訳の仕事は、時には現場で失敗して大恥をかくこともあるものですが、失敗しても後に引きずらないタイプの人がいいと思います。一方、よりよい表現や言い回しをじっくり考えるのが好きで、できるだけ完璧に仕上げたいのであれば、翻訳者に向いているでしょう。翻訳でも急ぎの仕事はありますが、通訳のようにその場で瞬間的に訳を出すことはなく、多少は読み直す時間もありますから、即座にアウトプットを出すことに納得のいかない人は、翻訳の方が向いているでしょう。また、通訳と翻訳では、仕事の現場もまったく異なります。通訳する際には、必ず人と関わるため、人に合わせることが苦にならないことが求められます。翻訳では、ほとんど人と対面することはありませんので、自分のペースで仕事を進めることができます。こうしたことを自分に照らしてみれば、自ずと判断できるかと思います。苦手を克服するために、あえて不得手の方を選ぶ人もいますが、仕事につなげたいのであれば、やはり自分の本質的なよさを生かす方が早くよい結果を得られると思います。

通訳者を目指すべきか、翻訳者を目指すべきか、悩む人が多いようです。何をポイントに決めたらよいでしょうか。

まざまな要素が関わってくることとは思いますが、やはり向き不向きはあると思います。日本語を話す上でも、どんどん言葉が出てくる人もいれば、考えながら言葉を選ぶ人もいます。しゃべりが得意であれば、通訳者に向いているでしょう。また、通訳の仕事は、時には現場で失敗して大恥をかくこともあるものですが、失敗しても後に引きずらないタイプの人がいいと思います。一方、よりよい表現や言い回しをじっくり考えるのが好きで、できるだけ完璧に仕上げたいのであれば、翻訳者に向いているでしょう。翻訳でも急ぎの仕事はありますが、通訳のようにその場で瞬間的に訳を出すことはなく、多少は読み直す時間もありますから、即座にアウトプットを出すことに納得のいかない人は、翻訳の方が向いているでしょう。また、通訳と翻訳では、仕事の現場もまったく異なります。通訳する際には、必ず人と関わるため、人に合わせることが苦にならないことが求められます。翻訳では、ほとんど人と対面することはありませんので、自分のペースで仕事を進めることができます。こうしたことを自分に照らしてみれば、自ずと判断できるかと思います。苦手を克服するために、あえて不得手の方を選ぶ人もいますが、仕事につなげたいのであれば、やはり自分の本質的なよさを生かす方が早くよい結果を得られると思います。

ご自身のキャリアの中で、特に印象に残っていることを聞かせてください。

私は英語ができる方だったので、大学生の頃から通訳や翻訳のアルバイトをしていました。今では考えられないことですが、英語ができるというだけで、いきなり日本映画の英語字幕の作成を頼まれたこともありました。日本を代表する映画監督の時代劇だったのですが、何の実績もない大学生に、何の資料もないまま、いきなり仕事を依頼する、何十年か前はまだそんな時代でした。同じようなことは他にもよくありました。ただ「英語ができるんでしょう?」と言われ、それだけで現場に行かされ、たいして詳しい打ち合わせなどもなく「はい、訳して」といった感じです。何かの会議に入ったこともあれば、車の展示会で新車の説明をしたこともありました。こちらも好奇心旺盛で怖いもの知らずだったので、なんでもかんでも引き受けてしまい、実にいろいろな仕事をしました。どの仕事もたいへん興味深く、素晴らしい経験となりました。今の時代は、もうそのような仕事の仕方をすることはできません。私の場合は、若い頃にそういった経験を積むことができたので、本当にラッキーだったと思っています。

多忙な生活の中で、心がけていることはありますか。

がけているというよりも、仕事を楽しんでいます。忙しい生活も楽しんでいます。国際研修室ではいくつかクラスを担当していますし、大学でも学生を指導していますが、教材やカリキュラムを作成したり、いろいろな年代の受講生や学生と触れ合うことも楽しいので、仕事がストレスになることはありません。

この仕事を長く続けている人は、困難なことはさまざまあるにせよ、この仕事が本当に好きな人が多いのだと思っています。誰にとってもコミュニケーションは一番大切なこと。誰かと誰かがコミュニケーションを取ることに、自分の力が役に立っているということが、嬉しいのではないでしょうか。自分の強みを、そこに活かせることが嬉しいのではないでしょうか。私はこの仕事をしていることを、いつも本当にラッキーだと思っています。