卒業生メッセージ

Vol.4

佐々木 秀也さん

職業
フリーランス翻訳者。NHKの仕事では、NHKの海外向け放送「NHKワールド」で放送される「NHKスペシャル」の英語台本や「NEWSLINE」のリポート英訳などを担当。
受講歴
「国際ニュース英語」「ライティング」「日→英翻訳」「日→英放送翻訳」(※現在は、コースの構成や講座の名称が異なっています。)
受講した
きっかけ
何を目指すにしても、質の高い英語に触れたい、そういうものからでなければ学ぶものがないと考えていました。ニュースを通して勉強すれば、質の高い英語に接することができ、いろいろなジャンルにも触れることができると思いました。

国際研修室を選んだ理由を教えてください。

ブランド力に惹かれたのは確かですが、実は、コストの面で意外にリーズナブルだったのです。他の学校には集中コースなどもありましたが、私としては、週1回 のペースでやっていって、1コマあたりでこれくらいのコストであれば、国際研修室がちょうどいいと感じました。また、ビジネス系の講座ですと、内容は当然 ビジネスだけになってしまいますが、国際研修室ではニュースを扱うので、ニュースを通じてさまざまなジャンルに触れられると思いました。ビジネス系のもの を翻訳するにしても、たとえば商品の開発や新しいサービスの話となると、世の中の情勢などを知っておかなければなりません。何をやるにしても、オールジャンルを勉強するべきだと考えています。ビジネスの専門用語を学んで、すぐにそれを使う方法もあるかもしれませんが、ニュースを勉強していけば、ビジネスにも応用が利くと思います。

通訳系と翻訳系、両方の講座を受講して、最終的に翻訳系に進んだのはなぜですか。

最初は「国際ニュース」という言葉にとても惹かれ、通訳系の「国際ニュース英語」を受講しました。しかし、通訳系はとても大変でした。瞬間に理解して、速攻で変換するので、考えている時間はありません。訛りの強い英語や、非英語圏の人が話す英語を聞き取るのが苦手で、何を言っているのか全くわからないこともありました。悩んでいた時、自分はもともと物を書くのが好きだったんだということを思い出したのです。アメリカの大学を卒業した後、少しの間、新聞社で働いていたことがありました。それで翻訳系も受講してみよう、両方試してみればどちらが向いているかわかるだろう、と思い立ちました。そして、翻訳系の 「ライティング」を受講してみて、やはり書く方が好きだったということがわかったのです。自分に向いているのは、書いて伝えることだったのだと。

「ライティング」の授業はいかがでしたか。

大人になると、自分の文章を添削してもらえる機会はなかなかありませんので、授業を受けていくうちに、どんどん楽しくなっていきました。先生からのコメントが書かれていたり、良い成績をもらったりすると、大人になっても嬉しいものです。また、クラスにはいろいろなレベルの人達がいましたが、皆仲が良かったので、お互いに発言をためらうことはありませんでした。誰かがああ言えば、ほかの誰かがこう言うといった雰囲気で、とても活気のあるクラスでした。直接クラスの仲間の意見を聞くと、もっとこうしようと思うようになったり、指摘された点であっても、なるほどなと思うようになりました。

プロフェッショナルを目指す最終段階で、「日→英放送翻訳」に進んだ理由を教えてください。また、授業はいかがでしたか。

とにかくさまざまな分野の英語に触れたいと考えていました。「日→英ニュースライター」では、手短に的確に情報を伝えるスタイルを学ぶわけですが、私はさまざまな分野のいろいろな文章に興味があったので、「日→英放送翻訳」を選びました。ニュースの中に収まっているものよりも、広範なものの方が向いていると思ったからです。どんな文章にもそれぞれ求められるスタイルはありますが、あらゆるものに触れておけば、あとはそれを応用し、スタイルだけを切り替えていけばいいと考えています。
授業内容は、簡単ではありませんでした。最初の学期は全然だめだったので、いったん休学しました。もっと背景知識や語彙力などをつけなければいけないと思ったのです。また、半年で結果を出そうと決めつけたのもいけなかったようです。復学して2学期連続で1年間やり続けたところ、評価がだんだん上がってきました。自分でもきっかけはよく分からなかったのですが、課題に触れてすぐ考える、という訓練を1年間続けていくと、さすがに慣れてくるものなのかもしれません。いつの間にか身体に染み込んで、いつの間にか活かせるようになっていた、という感じでしょうか。いつの間にか応用できるようになるようです。2学期目になってから、最初の学期のことを思い返し、あの悩みは一体何だったんだろう?とさえ思いました。

ご自身で徹底的にやってきた勉強法を紹介していただけますか。

五感というわけではありませんが、できるだけ全ての感覚を使うことを心がけています。日々何かを書いているわけですが、そのほかには、常に洋書に触れ、英文を読むようにしています。プライベートレッスンで英会話もずっと続けています。話すことにおいても、自分の思っていることが相手にきちんと伝わるのか、実際の感覚を通して学ばなければいけないと思っています。またiPodを利用すると海外の番組を聴くことができるので、生きた英語も意識して聴くようにしています。私は翻訳の仕事をしていますので、最も大切なのは、本を読むことだと思っています。とにかく、文章をたくさん読もうと決めています。

国際研修室で学んだことが、直接仕事で役に立っていると実感したことはありますか。

授業では、常に視聴者を意識するようにと言われ続けました。誰に対して翻訳するのか、自分のために翻訳するわけではありません。日本人にとっては一言で分かることであっても、日本のことをよく知らずに英語の放送を見ている人達には、伝わらないこともたくさんあります。限られた枠内ではあっても、分かりにくいことはできるだけ説明してあげなければなりません。同時に、書いた人の気持ちも意識すること、これも繰り返し言われました。これらのことは、仕事をする上での基本になっています。

NHKではどのような仕事をしていますか。特に印象に残っている仕事はありますか。

一番長く担当させてもらっているのは「NHKスペシャル」の台本です。初めて届いた台本は「家族の肖像」という番組タイトルの台本でした。それがデビューだったのでよく覚えています。音楽ユニットのB'zを特集した「メガヒットの秘密 ~20年目のB'z~」も担当させてもらいましたが、そういった楽しい仕事がくると、やったー!と思いますね(笑)。
「激流中国」「アフリカンド リーム」「灼熱アジア」などのシリーズものは、非常に興味深かったです。「激流中国」は、海外でもいくつか賞を取ったそうですが、そういった番組に携われたのはとても嬉しいことでした。ドキュメンタリー番組は、生身の人間のことを扱うので、やはり大変おもしろいです。また、番組内容の背景もリサーチするので、さまざまな知識を得ることができます。リーマンショックに関する番組の時は、調べるのが本当に大変でした。自分でも金融危機のからくりがよく分からなかったので、単に英語にしただけでは、とても分かってもらえないだろうなと思い、実にいろいろなことを調べました。
東日本大震災関連の番組は、やはり鮮明に記憶に残っています。そのほか、最近では「世界遺産 富士山 ~水をめぐる神秘~」「神秘の球体 マリモ ~北海道 阿寒湖の奇跡~」なども担当しました。NHKスペシャルでは、エンターテインメント系から国際系まで、あらゆるジャンルを扱うので、それが本当に面白いところなんです。

「NHKスペシャル」の英語台本は、依頼を受けてから納品するまで、どのように仕事を進めていくのですか。

一般的に納期は2週間ほどですが、実質は10日間ぐらいで仕上げます。しかし、先に日本語の番組が国内で放送される場合は、ゆとりを持って作業することがで きます。録画をしておけば、自分で内容を確認することができますから。1回映像を見たら、あとは日本語の台本を基に訳していきます。最初は、時間枠を気にせずにひと通り訳します。その後1回見直しをして、3回目のときに、時間に合わせて少しずつカットしていきます。1~2回見れば、全体は頭に入りますから、削るところも大体見えてきます。どうしても悩む時は、その部分だけ映像を見直すこともあります。納品後は、必ず最終台本がもらえるので、大変ありがた いです。
時間がある時は復習し、自分なりの和英辞典を作成しています。なかなか完全には手が回りきらないのですが、それでも、また将来何かに使えそうかなと思うものは入力しています。この仕事を続けていくためには、常に自分のレベルを上げていかなければなりませんので、そういった作業はとても大切です。

「NHKスペシャル」のほかには、どのような仕事をしていますか。

海外向け放送の「NHKワールド」では、「NEWSLINE」というニュース番組を放送していますが、その番組のリポート原稿を翻訳することがあります。この仕事は、映像を見ながら書くことはできません。翻訳とほぼ同時進行で、映像の編集作業をしているからです。映像を見ずに書くと、どうしてもしっくりとか み合わないことがありますので、「NHKスペシャル」に比べると厳しい作業です。また、仕事が入ってくるのは夜遅いことが多く、翌朝までに対応しなければなりません。厳しい仕事ですが、生のニュースに触れることができるので、大変勉強になります。

時間や体調の管理、仕事以外の時間の過ごし方について聞かせてください。

もともと健康には恵まれている方だと思いますが、自分自身でも睡眠のリズムだけは維持するように心がけています。また、朝起きたら必ず運動をします。朝運動をすると、身体の調子がよくなります。わざわざ外へ出掛けて行ってやるようなスポーツだと時間も取られてしまいますので、自宅でマシンを使ってできるよう な運動を、毎朝30分必ずやっています。ただ遅い時間に仕事が入ってくる時もありますので、その場合は仕方がありませんね。
楽しみは読書です。本を読むのが本当に好きなんです。特に洋書ですね。あとはカフェでのコーヒー。ですから本はカフェで読むことが多いです。小説が好きで、クラッシックからモダンまで、名作と言われるものは全て読んでみようと思っています。ミーハーなところでは、ダン・ブラウンの作品は全部読んでいます。昨年はずっとスタインベックを読んでいました。「怒りの葡萄」「エデンの東」などは大変長いで すが、読み切ってみてとても良かったです。昔、読むのにとても苦労したサマセット・モームの「月と六ペンス」も読み返しました。あの作品は昔の硬い英語で 書かれているので、読み直してみて初めて、ああ、なるほどなと思いました。近代のものでは、カート・ヴォネガットの作品が好きです。やはり小説ですが、少し変わった作品です。もちろん村上春樹も好きですよ。村上春樹の作品は、日本語と英語、両方で読んでいます。