卒業生メッセージ

Vol.5

森 美歩さん

職業
フリーランス通訳者・翻訳者
受講歴
「国際ニュース英語」「通訳英語」「同時通訳」「放送通訳」(※現在「国際ニュース英語」は「ニュース英語」に、「通訳英語」は「通訳基礎」に名称変更、「同時通訳」は「同時通訳基礎」と「同時通訳」に分かれています。)
受講した
きっかけ
以前の勤務先でプロの通訳者に話を機会があり、通訳の勉強をするのならが国際研修室がよいと薦められました。

国際研修室を選んだ理由を教えてください。

実は、最初からほぼ国際研修室に決めていました。以前はホテルに勤務していましたが、そこでセミナーやイベントが開催されるたびにプロの通訳者の方が来られたので、通訳の勉強についてよくいろいろなことを尋ねました。その際、学校に通うのならば国際研修室がよいと薦められました。何よりも日本語が鍛えられると聞いたので、それが決め手になりました。また他の学校説明会やエージェントでは、通訳者になるにせよ翻訳者になるにせよ、必ず得意分野を絞るように言われましたが、私はどのようなものでも訳せる通訳者、翻訳者になりたいと思っていました。国際研修室では、ニュースを教材にすることが多いと聞いていましたので、さまざまなテーマを扱うにちがいない、私が求めているような勉強ができるにちがいない、と思ったのです

入学してみて、どんな感想を持ちましたか。

国際研修室に来るまでは、自分は英語ができると思っていました。しかし、それは1回目の授業で打ち砕かれました。高校まではオランダで過ごしていたので英語に触れる機会が多く、帰国後、大学の英米文学科では、楽に授業についていくことができました。就職後も英語を活かしたい、英語を使う仕事をしたいと生意気にも思っていました。しかし、英語が話せるということと、プロを目指して勉強するということの間には、実に大きな差がありました。それまでは通訳をするといっても、「この人は、こんなことを言っていますよ」という程度だったのですが、話し手の伝えたいことを本当に理解して通訳するのは、まったく別次元であることがよく分かりました。

背景知識のなさも痛感しました。私は最初に「国際ニュース英語」のクラスに入ったのですが、1回目の授業のことは今でもよく覚えています。クルド人の問題についてディスカッションをしたのですが、私はそれまで新聞にもあまり目を通さないような生活をしていたので、「クルド人って誰?いったい誰なんだろう?」と、授業中そればかり考えていました。他の方たちはディスカッションに参加しているのですが、私は全く知識がなかったため、話に加わることすらできませんでした。これからは、さまざまな知識も身につけなければならないのだと思い知らされました。
(※現在「国際ニュース英語」は「ニュース英語」に名称変更しています。)

「国際ニュース英語」のクラスについて、もう少し詳しく聞かせてください。

英語で聞いて英語で理解するということを徹底的にやりました。特に、ダイヤグラム(相関図)を描く作業は、私にとっては目からウロコでした。ニュースを聞き、誰と誰が対立関係にあるのか、どの組織が上位にありどの組織が下位にあるか、などを図式化して描くのですが、それは大変役に立ちました。初めの頃は、内容が把握できないと、やみくもに聞こうとするだけで、焦っているうちに音声が終わってしまうことがよくありました。しかし、何度もダイヤグラムを描いていくうちに、一歩引いて全体を聞き、大筋を捉えることができるようになりました。これは本当に大きな収穫でした。今でこそ、放送の現場でダイヤグラムを描くことはありませんが、分かりづらいニュースでもパニックにならずに済むのは、ダイヤグラムを通じて全体を把握する練習を重ねたからだと思います。私にとっては「国際ニュー ス英語といえば、ダイヤグラム」ですね。
ほかには、毎回英語の新聞やニュース雑誌などの記事が配布され、とにかくたくさん「読む」「聞く」「見る」をこなすように言われました。通訳をする時はアウトプットすることが仕事になるわけですが、自分の中にないものは出てきません。英語にせよ日本語にせよ、たくさんの情報をインプットしておくことが必要になります。「国際ニュース英語」では、とにかくたくさんの量をこなしたので、その時に身についた習慣が今も役に立っています。

「国際ニュース英語」「通訳英語」「同時通訳」「放送通訳」を受講されましたが、お薦めの勉強法はありますか。

私はよく音読をしました。英語にせよ日本語にせよ、滑らかにアウトプットできるようになるために、とにかく音読をしました。「国際ニュース英語」や「通訳英語」を受講していた頃は、ほぼ毎日でした。また、知識にせよ表現にせよ、なんでも詰め込みました。私は書かないと覚えられないたちなので、新聞を読み、見出しを書き出し、すべて頭に入れました。知らない言葉も書き出し、意味を調べ、英語ではどう表現するのか必ず調べまし た。ニュース雑誌もよく読みました。英語版と日本語版、両方あるものは勉強をするには好都合でした。

また、手当たり次第にいろいろなものを訳してみました。英日であれば、インターネット上のさまざまな音声で、日英であれば、NHKの「視点・論点」という番組でよく練習しました。「視点・論点」は、長さがちょうどよく、テーマが多岐にわたっていました。月曜日から金曜日まで毎日練習し、週末は時間をかけてもう一度やり直しました。

「放送通訳」に進級してからも、日本語のニュースを音読しました。ホームページでニュース原稿を入手し、ただ目で追うのではなく声に出して読んでいくと、どう言えば分かりやすいのか、だんだんと自分の中に染み込んでくるような感じがありました。また、この頃からようやく範囲を絞った背景知識の勉強を始めました。たとえば、イギリスの裁判制度ですとか、ローマ・カトリック教会、スペースシャトルなどです。

最初の「国際ニュース英語」に入学してから「放送通訳」を卒業するまで、とにかく大量に「読む」「聞く」「見る」をこなしました。よく勉強は量より質だと言われますが、私は英語については量も大切だと思っています。英語の勉強は、量をこなすことで結構報われますので、まず量をやってみるというのが一つの方法 だと思います。

(※現在「国際ニュース英語」は「ニュース英語」に、「通訳英語」は「通訳基礎」に名称変更、「同時通訳」は「同時通訳基礎」と「同時通訳」に分かれています。)

独学ではなく、通学したことで、メリットはありましたか。

一緒に勉強する仲間を得られるのが、一番のメリットだと思います。自分ひとりでは、気持ちを維持するのがなかなか難しいですが、常にやる気のあるクラスメイ トに囲まれていたので、皆さんに背中を押してもらいながら、なんとか頑張り抜くことができました。授業で失敗した日の帰り道、自分ひとりでは悶々としてしまうのですが、クラスメイトと一緒のときは、お互い「今日こんな失敗をしちゃったよ」と話したり、「次はこうしてみたら」と励ましたりしました。勉強についてもたくさん情報交換しました。国際研修室から渋谷駅まで、クラスメイトと歩いていく15分間は本当に貴重な時間でした。

「通訳英語」へ進級した頃からは、授業のない時期などに集まって勉強会を開きました。誰かが「この本がわかりやすくてよかった」と言えば、皆でそれを買って読んだり、また誰かが「この番組が通訳の練習によかった」と言えば、皆でそれを訳して持ち寄ったりしました。

クラスメイトには本当に助けてもらいました。当時勉強会で一緒に勉強したメンバーとは、今でも連絡を取り合っています。

最初からプロを目指していたのですか。

初めは漠然と、プロになりたいという気持ちで入学しました。通訳と翻訳の両方に興味があったので、当初は「国際ニュース英語」と「ライティング」を併行受講していました。しかし、両方続けていくほど充分な勉強時間が取れず、通訳系の勉強に絞りました。進級していくうちに、今度は「放送通訳」か「同時通訳」を選択することになりました。国際研修室で勉強するようになってからは、ニュースをよく見るようになり、世界の動きがだんだん分かってくると、今度は自分なりに国際情勢を予想するなど、ニュースに大変興味を持つようになりました。そのようなことから、海外のニュースを日本語に通訳する「放送通訳」のクラスを選びました。自分にとって課題だった日本語のアウトプットも、このクラスで勉強すれば改善できると思いました。それまで本当に苦しい思いで勉強をしてきましたから、最後に一番苦手なところを克服したかったのです。
(※現在「同時通訳」は、「同時通訳基礎」と「同時通訳」に分かれています。)

仕事と勉強、どのように両立したのですか。勉強時間はどのように確保しましたか。

ある時、先生からのアドバイスをヒントに、自分が果たしてどれだけ勉強をしているのか、全部メモにつけてみようと思い立ちました。細かく時間を計り、何時何分から何時何分まで、あれをやった、これをやったと書き出してみると、自分が思っていたほどは時間を費やしていなかったのです。それまで無駄にしていた時間を全部使えば、充分に勉強時間を確保できると思いました。ですので、特に睡眠時間を削ったり、何かの時間を勉強に充てたりすることはありませんでした。その頃はホテルを退職し、語学スタッフなどの仕事をしながら通っていたのですが、当時は仕事量が少なかったこともあり、勉強に集中することができました。でも、今の生活ではもうとてもできませんが。
多くの方が、仕事をしながら勉強を続けていると思いますが、皆さん、仕事を優先するか勉強を優先するか、常に悩んでいらっしゃると思います。仕事を通してでなければ得られないものもありますし、勉強だけに専念するのも現実的には難しいものです。人によって状況は異なると思いますが、私の場合は、あれぐらい集中して勉強する期間が必要だったと思っています。あの時期がなければ、おそらく通訳者にはなれなかったでしょう。ただ今思えば、もっと勉強できたのではないかとも思っています。仕事を格好の言い訳にしていただけで、もっとやる気になれば、もっと勉強できたはずでした。

NHKのほかには、どのような仕事をしていますか。

英語のニュース雑誌の記事を、日本語版のために翻訳しています。国際研修室に通っている頃から、放送通訳のほかにも何かやってみたいと思っていたのですが、ちょうど卒業する頃、その雑誌の翻訳者募集の記事を見つけました。もともと翻訳の仕事の方に興味がありましたし、それまでも、長年その雑誌を勉強のために読んできましたので、迷わず応募しました。
海外ニュースを通訳するときと、ニュース雑誌を翻訳するときと、同じトピックを担当することがよくありますので、大いに相乗効果があります。翻訳の仕事で先に時間をかけて訳す機会があると、通訳の現場でも非常に役に立ちますし、通訳の現場で先にそのニュースを知っておくと、翻訳するときには良い表現を考え出すことができます。そしてまた、その表現をさらに次の放送で使うことができるのです。

印象に残っている仕事を聞かせてください。

最近は、シリア難民の問題がヨーロッパで大きなニュースになっていますが、先日担当したBBCのニュースの中で、シリアから逃れてきた車椅子の少女のリポートがありました。BBCは目を覆うような映像は流さないので、放送されたのはその子の話だけでしたが、聞いているだけでも辛いものでした。それほどまでにひどい体験でありながら、それをテレビで語るということは、その子も世界に伝わることを期待しているはずですから、この子の言葉はすべて正確に訳してあげなければいけないという思いに駆られました。ニュースそのものに対する責任だけでなく、その女の子個人に対する責任のようなものでしょうか。普段ニュースの現場では、客観的でいるように努めていますが、その子が想像を絶するような辛い経験をしながら、それでもなお希望を持ってドイツに向かおうとしていることに、大変心を打たれました。

時折、そういった感情移入をしたくなるようなニュースがあります。ただ、客観的に事実を伝えるべきところに感情移入するとおかしなことになってしまいます。 そこが大変難しいところなのですが、そのニュースはなんとしても、きちんと訳したいと思ったニュースでした。日本は難民問題の影響が少ないので、日頃そういったことを感じる機会は少ないのですが、難民の人たちの辛さを身にしみて感じるリポートでした。

フリータイムはどのように過ごしていますか。

テレビをつけっぱなしにして、ニュース番組をはしごしながら、のんびり編み物などをしています。私はインドア派なので、ほかにもお料理をしたりパンを焼いたりするのが好きなのですが、幸い全てテレビを見ながらできることなので、ひたすらニュース番組を見ながらやっています。もちろん、ずっと集中しているわけではないので、すべて頭に入るわけではありませんが、どんなことが話題になっているかは分かりますので、予習にも復習にもなり、大変好都合です。

海外ドラマもよく見ます。特にサスペンスものや刑事ものが好きなのですが、裁判のシーンなどでは、自分で勉強した裁判制度と照らしてみたり、言い回しを学んだり、大変勉強になります。海外ドラマは、楽しく学べるよい機会ですね。

民放のワイドショーなども結構役に立ちます。CNNは映画のニュースが多いですし、BBCはベッカム夫妻がどうしたこうしたというようなことも取り上げますので、そういった情報はワイドショーからのほうが得やすいです。やはり何でも見てみるものだなと思っています。だから家族から「すごいテレビっ子だね」って言われているんです(笑)。